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竹村健一氏との対談

月刊「世相」(太陽企画出版)

2004年7月号

日本人の英語はなぜ通じない?

上達のコツは「発音」にあり

 

竹村

今回はニューヨーク在住のハリウッド俳優、ケン・ケンセイさんにお話を伺います。

ニューヨーク在住の俳優と言うだけでも興味津々なところですが、この方は俳優としての顔とは別に、本名の「片岡昇」さん、としてしてもユニークな活動をされているのです。

僕がニューヨーク在住の片岡さんから聞いて一番びっくりしたのが、 日本人は英語らしい英語を喋る事が出来ないのだと言うことです。

確かに日本人の英語は昔からそんなに上手くはないというけれど、最近、若い世代ががんばっているから、僕らの世代よりはましにきたのではないか、と感じていました。

例えば英語で「耳」の事はイヤー(eair)といいますね。これが「年」を意味するイヤー(year)と日本人には区別が聴きづらいのだそうです。片岡さん曰く、日本人の発音は「年」も「耳」も同じに聞こえるのだそうですね。

 

「 e a r 」と「 y e a r 」の区別がつかない

片岡

ええ。ですから日本人はハッピー・ニュー・「耳」(Happy new 「eair」)といっているのです(笑)。それを聞いて、アメリカ人は笑っています。

卯年とか申年の場合に「耳」をつけても、この「年」が「耳」にしか聞こえないわけです。「卯年」と言っているのに、「耳」はウサギの「耳」、つまり「卯耳」と聞こえる。だからアメリカ人は理解に苦しんでいます。

「耳」は「アイウエオ」の「イ」なんですよ「年」は「y」がついています。このヤ行をちょっと練習するのです。すると。全然違う事に気づきます。

竹村

他にも「住む」を意味する「 l i v e 」と、「出て行く、去る」を意味する「 l e a v e 」も日本人には区別しづらい。歌の歌詞になると、まるで区別できません。


片岡

有名な歌手が英語で歌っても、「 l i v e」が「 l e a v e 」になっています。これはものすごくおかしなことです。

竹村

「私が、ニューヨークに住んでいます」というつもりが「ニューヨークを去ります」とアメリカ人には聞こえるのだそうです(笑)。

片岡

この事実を発見するまで、僕は三年かかりました。僕自身、歌の先生に注意されて気づいたのです。

竹村

そうなのですか。僕はこれまで、英会話の本をたくさん書いてきました。特にオリンピックの前後に集中していたため、「オリッンピックの前の英会話は竹村健一が独占している」と新聞に書かれたくらいです(笑)。

だけど考えてみると、書物ということもあって、あまり発音を意識していなかったかも知れません。ですから 発音についての、片岡さんの意見を聞いて、目からウロコだったわけです。

それにしても。アメリカにはたくさんの日本人が住んでいるのに、どうして片岡さんがここまで発音にこだわって、詳しくなったのか。それは彼の俳優としてのキャリアと関係しているのです。

ずっとハリウッド俳優を目指していた片岡さんは、思い切っていくつかのオーディションを受けたのだそうです。結果は、すべて不合格だったそうです。しかし、それが英語を勉強するきっかけになったと言う事ですね。

 

片岡

そうです。だいたい英語で二行台詞を読むと、向こうの人が、 「 That's Wonderful 」「 That's great 」といって、褒めてくれます。

そしてドアまで送られて、「 Keep woking 」といわれてバイバイです(笑)。

竹村

それはつまり不合格ということですね、ダメとはいわないで、「 That's good 」とかいうらしいですね、ついつい、期待してしまいます。

片岡

そうなんですドアまで送られるわけですし。 それからだんだん上手になってくると、今度は「もうちょっと悲しそうにいってくれ」「もうちょっと、こう、アングリーな感じでいってくれ」といった、演技指導がついてくるのです。

 

竹村

なるほど、だから実はまだ自分の英語力が片言のはずなのに、アメリカ人から「 Oh! you speak good English (あなたは英語が上手い)」といわれても、それを額面道りに受け取れません。


片岡

社交辞令が上手なのです。

 

竹村

そもそも我々は「アメリカ人は素直にものをいう」と思い込んでいるようなところがありますから。さて片岡さんはそれからもあきらめずにオーディションを受けに行き、厳しい状況が続いたという事でしょうか。

片岡

そうですね。そして最終的には、耳の不自由な人に教えているという先生についてみっちり学びました。その先生はすごく辛抱強く教えてくれましたが、発音はなかなか変わらないです。しかし、何がどういけないのか、というのは最後にすべて見えたんです。

竹村

先日この話を、歌手であり僕のテニス仲間でもある、伊藤ゆかりさんに話してみました。僕が本当に鬼の首でも取ったように(笑)、片岡さんから聞いた「日本の歌手でもイヤー(ear)とイヤー(year)が区別できないんだって」 と 話したのです。 すると「その話なら、私は知っている」と意外な答えが返ってきました。

本格的に英語を習ったことがあるそうです。彼女はアメリカのジャズをいつも歌っているのだから、より本場に忠実に歌おうと思ったら、やはり避けて通ることは出来ない道なのでしょう。プロの歌手である伊藤さんのような人も稀にはいるけれど、日本の学校の英語の先生でこういった事情をきちんと理解できる人はほとんどいないでしょう。

さて、その事実に気づいた片岡さんは、 『ザ・ケンセイ・メソード、日本人のためのアメリカン英語発音トレーニングブック』という本を書かれたそうですね。そしてその本が、ニューヨークの紀伊国屋の人の目に止って、店に置いてもらえることになったとか。

そしてニューヨークの紀伊国屋人が、異動で帰国するときに、「日本人も発音の重要さを知る必要がある」ということで、わざわざこの本を持ち帰って来てくれたと聞きました。この本は結構売れているそうですね。

片岡さんの発音の本はまだ広く知られていません。より多くの人に知ってもらうためにも本を読んでもらいたいです。そういうわけで、片岡さんのこの発音の話は、ずいぶん日本でも知られるようになってきているのです。いまは日本の大学でも教えていらっしゃるとか。

 

正しい発音やアクセントができない日本人


片岡

大学での講演をはじめとして、現場で実際に英語を教えている先生方もお話しました。

竹村

英語の先生からは、どういう反応がありましたか。

片岡

皆さんびっくりしていらっしゃいまいた。

竹村

そうでしょうね。以前から、「 L 」と「 R 」の発音が難しいというのは、我々も知っていました。もう五十年も前、僕が京大の学生の時の話ですが、音声学・発声学を教えていただいた先生がいました。 その先生曰く「私はこする英語を、愛する英語にします」と言うことでした。

つまり「こする」を意味する 「ラブ(r u b)」を「愛する」「ラブ( l ov e )」に一生懸命舌を歯茎にくっつけてから覚えるのです。

日本人が発音すると、「L」と「R」の発音がなかなかできないから、もう、「私はあなた好きよ。アイ・ラブ・ユー」といっているのが、アメリカ人には「あんたをこすります」という風に聞こえてしまうとか(笑)

片岡

そうですね。確かに難しい発音です。母音も難しい。 日本人の耳には、「ア」と聞こえる音が、英語には八つあるんです。「L」があったら、また難しいですが、でも「L」は簡単にできるんです。五分間ぐらいあれば。

竹村

私の知人に、幼い頃から「発音」さえきちんとしてたら、日本人でも英語ができるようになるというコンセプトのもと、教材を開発している人がいます。きっかけはその人がふとしたことでルーマニアという国に惹かれ、頻繁に出かけるようになったことです。

いろいろと調べているうちに、ルーマニアの言葉が、音数がとても多いことが分かったのです。 日本語は、英語よりもはるかに音がすくないのです。韓国語も日本語よりは多いのです。

 

片岡

英語はだいだい千二百ぐらいです。

 

竹村

ルーマニア語は、もっと多くて、四、五千はあるそうですよ。そのルーマニア好きの知人は、ルーマニアに惚れ込んで、自費で毎年、三、四人のルーマニアの知人を日本へ招待したりもしているそうです。彼らは日本に三ヶ月滞在しただけで、結構日本語を喋ることができるようになるのだそうです。

日本語を上手に喋る外国人を見る機会も多いと思いますが、やはり外国のほうが音の数が多いから耳や舌が、慣れているのだと思いますよ。 そういう人から見ると、日本人はある程度はこなせるということになるのでしょう。

漢字を覚えたり、書いたりすることより、話せるようになるほうが簡単です。 一方、逆に日本人はたった五十ぐらいの音にしか、耳も舌も慣れていないから、いろいろな変化ある音に対応することができないのです。

 

片岡

アクセントの問題もあります。日本語のアクセントは、他の言葉とは違うのです。例えば、「アイウエオ」というでしょう。この「アイウエオ」のどこにアクセントがあると思います?

竹村

よくわからないけど「アイウエオ」にアクセントなど、あるのですか?

片岡

標準語は「イ」と「ウ」と「エ」にあります。 しかし英語は一個しか上らないんです。例えば、アメリカ人が「ウメボシ」っていうと「ウメーシ」ですよね。それと同じように、日本人は英語を話すときにアクセント上っていくんですよ。

例えば、「エデュケーション( education )」という言葉がありますね。日本人の 「エデュケーション」ではなく「 a 」にアクセントがある、上るのが本来なのです。 「エデュケイション」というように。そういわないと通じないですし。

竹村

日本人は懸命に外国語を勉強しているのですが、実際のところ、ネイティブである外国人には通用していないという現実にはあまり気づいていないのです。そ れにしても、英会話の学校や教材がこんなにたくさんある国は世界中でも日本くらいでしょう。

けれども、ここまで上達が遅い国民も珍しいです(笑)。努力家だし、決して頭が悪いわけではないのに。 日本人は、その言葉の成り立ちからも、「音」を聞き分ける身体能力があまり高くはないということです。

日本の政治家でも、英語を話せる人はいるけれど、評価は分かれます。片岡さん曰く、中曽根元総理の英語は、なかなか流暢だということです。

片岡

そうですね、流暢でした、ただ、やはりアクセントは、日本語のアクセントでしたが。私は英語に対するスタンスでは小泉首相をもっとも評価します。最初から、「僕は上手い英語は話せません。片言の英語ですが話します」という、独自のメッセージが伝わってくるところがいいです。

竹村

それでアメリカ人は心が和んだのでしょう。

片岡

海外ではイギリスのブレア首相の英語が好きです。


竹村

それは当たり前ではないですか(笑)。

片岡

でも、英語の先生もびっくりするくらいの綺麗な英語ですから。

竹村

なるほど。ブレア首相の就任時には、久しぶりに労働党が政権をとって、大きな話題となりました。こういう人気の有無も、英語の流麗さと関係あるのでしょうか。

 

英語の発音は一年で一級二年でようやく初段

片岡

そうでしょうね。言葉が上手いと政策や主張などが、いろいろと伝わりやすくなりますからね。英語においての「発音」とは、個々の音、リズム、フレーズ、この三つを含めてのものなのです。この三つができていないと、なかなか通じないわけです。

竹村

僕は、日本人が英語を第二国語にするというのは、無理だと思っています。 こんな離れ小島に住んでいる国民すべてが、英語圏の国並みに流暢な英語を話すようになるのは難しいですよ。

ただ、これだけの国際交流が盛んになり、外国の企業も投資してくるという時代に、皆が皆でなくとも、一割ぐらいの人間は、やはり英語らしい英語を話して国際交流社会と渡り合ってほしいものだと思うのですが。そういう風に、話せる実力のある人が、とにかく話すようになるべきです。

日本人皆に英語を教えたところで、本格的な英語になるんだから、それよりは日本語そのもの、つまり国語の勉強に時間を費やしたほうがいいと思います。

英語の本を数え切れないほど書いてきた、竹村健一先生の現在の結論です(笑)自分の国の言葉だって、そこまできちんと話せる人がいるのかどうか疑問ですし。

この頃は猫も杓子も「英語が話せればいい」と思っている人が増えたけれど、しょせんは中途半端に過ぎないのです。僕はそう考えているのですが、片岡さんが先ほどからおっしゃっている方法で、効果はすぐ現れるのですか。

片岡

そういうものもあります。しかし、やはりある程度練習は必要です。例えば、私は剣道やってますけど、一年ぐらい続けてようやく剣道一級の実力がつきます。

それは英語の発音でも同じことで、一年ぐらい続けて一級、二年ぐらいやって初段というところでしょう。でも、続ければできます。

英語というのは個人個人によって異なるアクセントがあるそうです、アメリカ人の中でも、どんなアクセントがあってもいいんです。アメリカ人が聞いて、理解できればいいのです。


竹村

剣道の話が出ましたが、片岡さんはニューヨークで、剣道の先生をしていらっしゃいます。ただ、最終的な目的はアメリカの映画俳優になることだそうです。

実際、CMなどにはちょくちょく出演されているようです。映画といえば、『ラスト・サムライ』が日米で話題になりましたね。特に日本では、渡辺謙さんが注目されたことは記憶に新しいです。

彼自身の演技が素晴らしかったのはもちろんですが、あのトム・クルーズが、渡辺謙さんを立てるようにしたということなのです

片岡

そうですね。トム・クルーズはすごく彼を立てていましたね。

竹村

本来、トム・クルーズというのは「まず俺が」というタイプの俳優でした。

片岡

いままでの映画はそうでした。

竹村

これは日本の映画だから、やはり渡辺さんを立てたのでしょうね。つまり日本の文化というもの、「武士道」を認めていたということでしょう。そしてこの文化をもっと知ってほしいという気持ちがあったのでしょうね。

片岡

そうかも知れません。 竹村 そう好意的に解釈したいけどね、僕は(笑)。ところで、ニューヨークで剣道やっていたら、女性から注目をあびるのではないですか?

片岡

(笑)。最初は少しモテたりもしました。「ブルース・リーか?」とよく聞かれたものですよ。若い女の子も剣道習いに来ましたし。

竹村

そこえ剣道習いにきたある日本女性がいます。最後は、その女性がこの片岡先生を勝ち取ったわけです(笑)。僕は長い間『週刊ポスト』に「世界の読み方」という連載をしているのだけれど、実はその女性はしばらくその連載を手伝ってくれていたので、よく知っている人です(笑)。

さて話が脱線してしまいましたが、片岡さんの最後の望みは何なのですか。渡辺謙さんのように、日本の俳優としてアメリカで有名になることですか。

 

目指すはあくまで「サムライ・スター」

片岡

私が剣道始めたきっかけは実は「サムライ・スター」になりたかったからなんです。
それでニューヨークに行って、剣道をやっているときに、映画のキャスティングの人が私を見て、映画に出ないかといってくれたのです。そこから始まったのです。そこで、英語の発音と演技の練習を始めました。

いま、英語の発音について話ができるのは、私の俳優としての修行の副産物なんです。だから英語の勉強をしようと思って渡米したわけではありません役がほしかったから、一生懸命に勉強したんです。

竹村

これで英語の発音の分野で新機軸を打ち出して、本が爆発的にヒットしたら、 それこそ俳優業に専念できるかも知れませんよ。

片岡

そうですね。サムライ映画をいつかつくりたいと思っています。

竹村

とにかく、僕は変わった人が好きなんです。片岡さんもそういう意味ではユニークな方だと思っています。これからのご活躍を楽しみにしています。

(月刊「世相」2004年7月号 時の人・話題の人より転載)

 

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